サッカー指導の現場で、コーチが「首を振れ!」という物言いをよく見かけます。
これは本質的ではないです。
個人的には完全にNGです。
子供がサッカーの試合中に「首を振れ!」と声がけされて、ただ単に、いやいやをするかのように首を左右に振りながら走ってる様子を見てベンチも応援席も大爆笑、本人キョトン、という場面を複数回見たことがあります。
ボクも子供のラダートレーニングで「足を動かしながら手も振れ~」と言ったら、真剣にキラキラ星の手の振り方をして、なんだか浮かぬ顔をしてる選手がいて・・・。
「振る」をそう受け取るか!?と衝撃を受けたことがあります。
そんなもんなんです。
「首を振れ」なんて、そんな物言いをせず、
正しく本質を伝えてやれば、もっと効果が出ます。
以下、お読みください。
まずサッカーは戦略的なゲームなので、情報を採る意味で「見る」ことはとても重要です。
これは誰もが認めるところだと思います。
ボクが言いたいのは、もっと物理的なこと、身体操作の観点です。
人間の身体というものは、見た方向に向く、という基本的な習性というか慣性というか、があります。
順番があります。
目が何かを見る
↓
目玉が右に(左に)寄る
↓
目線の方向に合わるように顔が向く(ついていく)
↓
上半身が、顔が向く方向に追随して向きを変えていく
(顔とのねじれを解消するように)
↓
腰が、上半身の向いた方向に追随して向きを変えていく
(上半身とのねじれを解消するように)
↓
足は、腰から上の向きに合わせるだけ
人間の身体は放っておくと上記の流れになります。
人間の身体は実に優秀にできているわけです。
目の向き次第で、身体の動作やパフォーマンスを上げることができるわけです。
スラロームの動きをする時に、視線を先送りすると、楽にスラロームできるのがわかりますかね。
で、ちなみに、サッカーの名プレーヤーは直線移動よりも、弧を描きながらの移動がめっちゃ得意だったりしますね。
おそらくまず目を上手に先行させているのだと思います。
手のバランスをとる動きなどは、目の向かう方向と意図に追従して調整しているわけです。
この流れを理解した上で「ボールウォッチャー」という状況がいかによろしくないか、が理解できると思います。
ボール方向に視線と身体が向いてしまう(正対してしまう)わけです。
サッカーという「競技としての本質」、あるいは「ゲーム(楽しさ)としての本質」は、相手よりも1点多く点を奪う、ということです。
「ボールウォッチャー」という状況は、ボールに正対してしまって、ゴールのことを忘れた身体状況を作り出します。
これは、極論すれば、いわば「競技の放棄」に等しいわけです。
文字通り、近視眼的、になってしまうわけです。
「半身になれ」という言い方がありますね。
これも視野の確保、と同義に他なりませんね。
たとえばサイドの選手なら、ボールを受けるにあたって、視野をできるだけ広げて、前にも後ろにも動作できる視野を作れ!ということになります。
川崎フロンターレの大島選手や脇坂選手は、この身体の向きが常にその場その場に合っている(目的に合っている)ので、名選手と言われるわけですね。
さて、これからが更に重要なことですが、文字通り“近視眼”になった身体はどうなっていくでしょうか?ということです。
「ボールウォッチャー」の時の身体の状況、姿勢を想像してみてください。
下に転がっているボールを見るので、首が垂れがちになりますね。顔(頭部)が前に垂れると、どこかで身体の重心バランスを維持しなければならなくなり、ほとんどはおしりの落ちた姿勢になってバランスを採ることになります。
もちろん、ぱっと見、表にでまくるわけではありませんが、ボクはスキーをやってきて重力の中での体感ですが、ほんの1度2度視線が落ちただけで、体全体の姿勢は大きく違ってくる感じです。
おしりが落ちることで、太ももが寝がちになり、身体の中で大きな部類と言える太ももの筋肉に乳酸がたまり、結果、疲労度も増しますね。
で、さらに大事なことですが、ややうつむき加減の時と、前をしっかり見据えて顔を立てた姿勢のときとで首の左右の可動域を体感してみてください。
そう、顔を立てたときの方が左右の可動域が広いことがわかると思います。
もっと言えば、肩甲骨を落とし、骨盤を立てるともっと首が回りやすくなると思います。
でも、ここでも勘違いしてほしくないのは、肩甲骨を落とし、骨盤を立てる姿勢を維持しようというのは、本末転倒です。維持にはエネルギーが使われ、やはり疲労につながります。
このページで言いたいことは、「意図して見る」ことだけが大事、見ようとすると自然といい姿勢になる、ということなんです。
人間は目的物を確認しようとした時には、まず首が目の動きをサポートするために可動域を広げる体勢をとるんです。
プレーリードッグが朝日を浴びて並んでる時に、敵か何かの気配を感じたのか、ピンと首を伸ばして警戒モードになりますよね。
これは、要はいま必要な視野を確保しようとしているわけです。
サッカーのプレー中に、必要な時に「ちゃんと意図して見る」ことができる、こと肝要なんです。
結果的に、よいプレーヤーは見ますので、動作としては首を振っているように見えるわけです。
この結果のみで指導しちゃいけません。
ちなみに、首に限らず、腰のような大きな関節が曲げられっぱなしだと、足の可動域が悪くなることも覚えておいてください。
肩甲骨なんかも固定してしまうと、首も含めて、あちこちの関節の可動域が狭くなることを体感してみてください。
よく姿勢が大事、と言いますが、変な話が、プレー中の「ものの見方」が改善されるだけで、姿勢も抜群によくなってしまう。
その意味で「姿勢をよくしろ」なんて指導も本質的ではありませんね。
目、意図して見ること、視線、というもので、こんなにいろいろ改善が見込まれるわけです。
それほど目の使い方は重要なのです。
ここでひとつの結論ですが、「首を振れ!」なんてコーチングは全く無意味で、あくまで「ちゃんと見てるか?」という問いかけが正解になるわけです。
子供にはちゃんと見る→情報を察知する→対処する、という至極当たり前のプレーをやらせつつ、結果として、その動作・骨格にあった反射神経や筋肉が鍛えられついていくことになります。
指導対象が中学生以上の大人なら、常に「意図」を問いましょう。
「意図」を問うことで、何を見なければならないのか決まってきます。
見よう、見ようとすることで、自然と首が振られます。
身体も、見ることを最大限重視した姿勢を維持しようとした骨格や筋肉がつくことになります。
見ようと意図した身体は、自然と首が立ち、その意図の目的を最大限達成できるようにサポートするわけです。
ちゃんと顔が立つと、おしりが落ちにくくなり、体全体の姿勢の維持は、極端に言うと、基本的に筋肉中心よりも骨格中心となりますので、筋肉への乳酸菌のたまりが押さえられ、疲れにくいプレーができることになります。
「見る」ということは、結果的に、その意味でも、競技者としてとても重要なことなんです。
もうひとつ付け加えると、子供はインサイドキックが苦手な子が少なくないと思いますが、大人でも、たかだかアップの時の短距離のインサイドキックを、ぼっこんぼっこん跳ねらかせて蹴る選手がいますね。
これには理由があって、練習のための練習、蹴るためのインサイド、となっているわけです。
つまり、試合中ではないので、見るのはボールだけでよくて、視線を下げて頭が垂れて、おしりが落ち、体重が乗せにくいので、足先と足の筋肉だけの押し出しの少ないキックになってしまう、つまり股関節から足先までの半径で円を描くキックになるのでボールに対してアッパースイングぎみになるわけです。
ボールの芯ではなく、上部をドライブ気味に叩くことになりますね。結果的にぼっこんぼっこんのパスになります。
子供のインサイドキックの指導をしている時に気がつきましたが、誰かがずっこけてみんなが笑いだして、そしたら、影になって見えなかった子たちも「なんだ?なにが起こった?」と顔を立てて見ようとします。
スッ、スッ、と子どもたちの首が伸び始めます。
そうすると、とたんにインサイドキックの質が上がるんですよ。
見ようとすることで顔が立って、その結果、腰も立って、足の可動域が広がります。
インサイドキックは足を横に向けた状態でのキックなので、股関節あたりの可動域が必須なんですね。
姿勢が良くなることで足も押し出せる大勢になり、足がボールに触れている時間も長くなります。キックに体重も乗るようになります。
ああ、かなりズルズルと書いてしまいましたが・・・
「首を振れ」なんて指導してちゃだめです。
「見よ!見よ!見るんだジョー」(古w)
明日のためのその一「見る」
一に見る、ニに見る、三四がなくて、五に見る
見ることは、苦しくないんです。
見るだけでほんとうに簡単にいろんなことが改善、解決できますよ。
という話でした。